吉崎御坊から程近い山十楽村に、与三次(よそじ)と清(きよ)という農民の夫婦がいた。
二人の子供に恵まれ、姑との五人で幸せに暮らしていた。
ところが、一家の大黒柱・与三次が、突然病に倒れ、この世を去ったのである。
夫を失った清は、悲嘆にくれながらも、子供のために必死に働いた。
だが、無常の風に容赦はない。やがて、二人の子供が相次いで病死してしまう。
「あまりにも、むごい・・・・。私は、何を明かりに生きたらいいのでしょう。 今度は、私が死ぬ番。死んだらどこへ行くのでしょうか」
無常を強く感じた清は、後生への不安にさいなまれた。
ちょうどその頃、蓮如上人が吉崎御坊を建立され、近郷は言うに及ばず、東北、近畿方面からも参詣者が集い、大変なにぎわいを見せていた。
知人から、
「あなたの暗い心を晴らしてくださる方は、蓮如上人しかおられない」と聞かされた清は、夫の命日に、吉崎御坊へ参詣したのである。
「人間の一生は、天に炸裂する稲妻のように一瞬に過ぎ去ってしまう。夢や幻のような、はかない楽しみでしかない。
しかも、明日まで生きておれる保障など、どこにもないのだ。もし、無常の風に誘われたならば、いつ、どんな病気で死ぬか分からない。
死ぬ時には、生涯かけて築き上げた地位、名誉、財産も、妻や子供も、何一つ、明かりにならない。たった一人で、真っ暗な心を抱えて、泣き泣き、三塗の大河を渡らなければならないのだ。
後生は一大事。
必ず、絶対の幸福に救い摂ると誓われた阿弥陀仏の本願を聞き抜きなさい」
蓮如上人のご説法は、清の心に、深く突き刺さった。
(つづく)
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